
まだまだ、外出を自粛しなければならない状況が続いていますね。
そんななか最近、私は再び推理小説を手に取り始めました。
今まではあまりトリックについて深く考えずにさらさらと読むだけでしたが、
こんなにも家にいる時間が長いので、主人公になりきったつもりでじっくりトリックを解いています。
事件の時系列を整理して、容疑者のアリバイを確認し、自分の考察などを紙に書き出したりして・・・・・・。
これでずっと一人で楽しめてしまいます 笑
さて、そんな推理小説ですが、お茶をテーマにした短篇があるのです。
有栖川有栖の作品『ロシア紅茶の謎』。
あらすじは、
作詞家の男性がパーティの最中に中毒死した。警察の捜査では、招待客5人全員に配られたロシア紅茶に青酸カリが混入されたと推定される。しかし、カップからも砂糖からも毒は検出されず、被害者だけに毒を盛った方法に全く見当がつかない。この謎に犯罪臨床学者の火村英生と推理作家の有栖川有栖が挑む。
ラストは犯人の命を賭した巧妙なトリックに思わず“おぉ!”と驚かされるので、ぜひお勧めです。
今回のブログでは、そんな作中に出てきた「ロシア紅茶」を探っていこうと思います。
有栖川有栖 著 『ロシア紅茶の謎』(全六篇収録)
一篇が50ページ程ずつなのでスラスラと読めて楽しめます!
火村英生シリーズは、2016年に俳優の斎藤工さんと窪田正孝さんの主演でドラマ化されていましたね。
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ロシアの茶の歴史と習慣
まずは、本題に入る前に簡単にロシアの茶の出会いについて紐解いてみましょう。
諸説ありますが、初めてロシアにお茶が渡ったのは1638年。
モンゴルの王がロシアの皇帝に中国茶葉200袋を献上したことが記録に残っています。
その後、17世紀後半には、陸路による中国との交易が盛んになり本格的に喫茶文化が発展していきました。
その喫茶文化はロシア独自のものへと進化していきます。
特に、“金属製の卓上湯沸かし器 サモワール(самовар)”を使用した喫茶文化は西ヨーロッパ諸国で見受けられないものです。
サモワール内部に通ったパイプへ火をつけた木片と炭を仕込み、周囲の空洞に入れた水を沸かします。
紅茶は別のティーポットでかなり濃く淹れられており、その濃い紅茶をティーカップへ移して、
サモワールの蛇口から出した湯で割り、各々の好みの濃さに調整していくのです。
時を戻して、現代の喫茶習慣はどうでしょうか。
現代のロシアで最も飲まれる茶葉の種類は“紅茶”で、2016年の調査では茶葉の年間消費量は世界第5位。
これはトルコ、アイルランド、イギリス、イランに次ぐ順位です。なんと、年間で一人当たり約1.67kgも消費しているとの結果でした。
(ちなみに、日本は第10位で、年間一人当たり0.97kgの消費でした。)
このように、ロシアも茶を愛する国なのです!
伝統的なロシアのサモワール。
特に紅茶を淹れる際の厳しい作法は無い。
頂点のくぼみにティーカップを置いて保温できるものもある。
ロシアの方に聞くと、残念ながら現代では一般的には使われていないとのこと。
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ロシア紅茶とは
さて、本題へ。
作中で題材にされているロシア紅茶とは、ロシア原産の紅茶葉を使用した紅茶というわけではなく、
“ロシアにおける紅茶の喫茶様式”を表しているのです。
その喫茶様式の一つに、
ロシア風のジャム「ヴァレーニエ(Варенье)」をお茶請けに食べて楽しむことが挙げられます。
ヴァレーニエとはロシア語で「果物のプレザーブ」と訳せ、さらにいえば“果物の形が残っているシロップ”という意味。
苺、桃、ラズベリーなど、なかにはなんと松ぼっくりのヴァレーニエがあり、レシピはその家で様々だとか。
ロシアが母国のHOTEL 1899 TOKYOスタッフに訊くと、
その喫茶様式は深く根付いているそうで、現代でもロシアの方々は紅茶をヴァレーニエと一緒に飲むそう。
そのスタッフの母国の実家でも、よくヴァレーニエを作っているとのことでした。
ロシアの切手。紅茶がデザインされている。
やはり、それだけロシア国民にとって紅茶は人気なのだろう。
ロシア出身のスタッフに訊くと「冬のロシアの寒さは厳しいから、皆温かい紅茶を飲むのが好きなのかも」とのこと。
また余談ですが、そのスタッフは抹茶を日本に来てから初めて飲んだそう。まだ、抹茶はポピュラーでは無いのかも・・・。
※参考資料
春山行夫 著 『紅茶の文化史』
角山栄 著 『茶の世界史 改版 - 緑茶の文化と紅茶の世界-』
W.H.ユーカース 著(杉本卓 訳)『ロマンス・オブ・ティー』
World Attas 「Top 10 Tea Loving Countries In The World」
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苺のヴァレーニエ
さて、折角なので、ロシア出身のスタッフに伝統的なレシピを教えてもらい「苺のヴァレーニエ」を作ってみました。
レシピを動画で纏めましたので、皆さんも作ってみてはいかかでしょうか?!
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推理小説を片手に、ストレートで淹れた紅茶と苺のヴァレーニエを用意すれば、
なんだか作中の探偵の気分に、そしてまた異国の茶文化に浸れそうではないですか。
部屋の中に縛られる今は、そういう妄想をお茶と一緒に味わうのも、
なんだか“楽しみの一つ”になるのかもしれませんね。
部屋にいながらも、華やかな香りや彩りを楽めます。
お茶はSTAY HOMEな今に癒しを与えるかも。
