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常滑焼の魅力とは – 西巻顕子氏(一般社団法人 知る・愉しむ~日本の器 代表理事)|1899 CHACHACHA BLOG

2021/12/11 一服のお茶のような話 濱田裕章

常滑焼の魅力とは – 西巻顕子氏(一般社団法人 知る・愉しむ~日本の器 代表理事)|1899 CHACHACHA BLOG

これまでも様々な急須の話をしてきたCHACHACHAブログ。

今回は急須の中でも人気の「常滑焼」について、様々な日本の器、テーブルコンサルティングを行っている「一般社団法人知る・愉しむ~日本の器」の 代表理事・西巻顕子氏にお話しを伺いました。

知っているようで知らなかった常滑焼の魅力、特徴について語っていただきます。

常滑焼の歴史・特徴とは

(濱田)
このインタビューの数日前にも常滑市に訪問されていたと聞きました。
西巻さんは常滑市の出身ではないとのことですが、逆に外から客観的に見た常滑焼の魅力・特徴について伺えればと思います。よろしくお願いいたします。

まずは、常滑焼の急須の歴史を伺えますか。

(西巻氏)
常滑焼は、もともと土管や甕などの工業用品を焼いていました。
いまも町中の壁に常滑焼の土管があったり、甕があったり、驚かされることがあります。
有名な土管坂があり、両側に土管の壁があるのですが、意図して作ったわけではなく、それぞれの家で、それぞれの壁を作った結果、常滑焼の壁が出来上がったとのことで、今では観光名所になっています。
土管や甕というと、何かに使う道具だと思う方が大半だと思いますが、常滑市では無造作に積まれている景色が多くあり、常滑の特徴のひとつと言えます。

今となっては「急須といえば常滑焼」という印象を持つ方が多いと思いますが、常滑焼における急須の歴史は浅く、200年程度と聞いています。背景としては、急須で有名な中国・宜興(ぎこう)から伝わり、常滑の田土が急須にぴったりだということで急須が焼かれ始めたと聞いています。それまでは茶道が中心だった文化が、庶民の間にも煎茶が広まったことで急須が作られ始めたと考えられます。
その後、量産化に成功した萬古焼に一時的に生産量が抜かされるものの、常滑焼もその品質を保ちつつ量産化することで、現在の地位を築いています。

(濱田)
西巻さんがご覧になられている範囲では、常滑焼の変化や昨今の特徴を感じるものはありますでしょうか。

(西巻氏)
多くの人がイメージする常滑焼は、赤茶色の急須で1,000円程度から購入できるものではないでしょうか。私が器の仕事を始めた頃は、この赤茶色の常滑焼をコーディネートに取り入れることに少し抵抗がありましたが、ここ最近の常滑焼はとてもスタイリッシュな急須が出てきており、テーブルコーディネートに取り入れてもとても素敵です。最近では、一般的な3~4名用(家庭用)の物の他に、1名分の量が入る急須も多く作られているのも特徴です。先日主催したイベントでは、15名の参加者に対して15種の多種多様なデザインの急須でお茶を楽しみました。通常主役はお茶自体で、急須は道具のひとつというイメージがあると思いますが、15種も出てくると参加者の反応も関心度も良く、これらの変化は常滑焼の作家さんの努力の賜物だと感じています。

また、常滑の作家さんの中では、中国茶や台湾茶の勉強もされている方も多くおられます。中国や台湾の急須は多様なデザインの物が多いことにびっくりした記憶がありますが、そういった点を取り入れられているのではないでしょうか。

常滑焼の特徴について

(濱田)
直近でも変化があるんですね。
関連して常滑焼の特徴についてはどのように感じていますか。

(西巻氏)
常滑焼の特徴は、『技術』と『土』だと思います。
常滑焼の伝統工芸士が作る急須は、取り扱いは日用品であるものの、品質は「美術品」と言っても過言ではありません。
急須を作る過程を何度か拝見させていただきましたが、轆轤(ろくろ)を挽く様子、急須の身を挽く様子、口を挽く様子、取っ手を挽く様子、茶こしを作る様子、そしてその全ての収縮度合いを計算しながら焼成する様は、常滑が世界に誇る技術の一つです。その様子は大げさではなく涙が出てくるほどです。
またその技術の表れは、急須の身と蓋の相性です。収縮率も加味しながら轆轤だけで『ピタッ』と合わせるのは素晴らしい技術です。身と蓋が合うのは当然と思われるかもしれませんが、常滑焼はその技術が逸脱しています。急須を注ぐ際に、急須を傾けますが、身と蓋の間から水が漏れることはほぼありません。私は職業柄多くの急須を持っていますが、その完成度の高さは唯一無二と感じています。

さらに常滑特有の土がお茶の魅力を引き出します。常滑の土は渋みや苦味を吸収しつつ、旨味と甘味を残すのです。日本酒やワイン、コーヒーなどで皆さん体験があると思いますが、入れ物によってその味は大きく変化します。その中でも常滑焼で頂くお茶は最も違いを感じます。
さらに、常滑焼の作家さん達の特徴は、器を作るだけでなく、お茶を淹れる研究をされている方も多くおられることです。工房を訪問すると、お茶セットを出してきて慣れた手つきでお茶を淹れていただけるのですが、そのお点前が素晴らしいです。茶葉や温度へのこだわりが強く、茶葉の品種に合わせた適正温度で、旨味を逃さず淹れていただけます。各作家さんのお話しを聞きながら、彼等自作の急須と茶器で頂くお茶はとても贅沢な体験であり、常滑の文化の一つではないでしょうか。

常滑焼の急須、今後どのような展開に

(濱田)
伺っているだけで常滑焼の急須が欲しくなってきました。
この素晴らしい常滑焼ですが、今後どのような展開、取り組みが考えられているのでしょうか。

(西巻氏)
残念ながら常滑焼が位置する愛知県、常滑市の取り組みは確認できませんでした。作家さんと行政との距離を感じています。他の地域の焼き物でも同様だと感じる事が多いのは事実です。行政が主催したイベントで、有名タレントや業界人を起用したアートフィスティバルがありましたが、全く盛り上がらなかったという事例も聞きました。理由は主催者側の担当者たちと作家側の志と温度の違いでしょうか。

また常滑焼の当事者たちはどうかというと、常滑の風土はとてもゆるやかだと言えます。商品に値段をつけていない(記載されていない)ことも多く、人がおおらかなところが常滑の特徴と言えると思います。昨今、中国茶ブームを背景に、常滑焼の急須が、海外からの引き合いも多いらしいですが、そこに欲を出す人も少ない印象があります。

そういった中、あくまでも私の私見ですが常滑焼をバックアップ、応援しているのは、常滑の外から来た人たちという印象を持ちました。常滑に嫁いだ方、また所謂よそ者が常滑焼の魅力や価値・特徴に惹かれ感動し、もっと広めたいと積極的に応援しているのです。
今では私もその一人です。
代表的な例が「盤プロジェクト」です。工業用品、急須がメインの常滑焼ですが、その伝統技術・特徴を見直して立ち上がったプロジェクトです。常滑焼の技術の特徴を、お皿などの器として展開しており、開発した器は有名料亭、レストラン、ホテルの他、G20などでも採用されている実績があります。
また2022年に国際芸術祭「あいち2022」の主会場に常滑が選ばれました。これは常滑焼に限ったイベントではありませんが、ここから大きなうねりが出てくる可能性はあります。

(濱田)
最後にCHACHACHAブログをご覧いただいている方々にメッセージをお願いします。

(西巻氏)
社会的な人口減少が問題視されていますが、常滑も例外ではありません。そのような中、他の焼き物同様に、関わる人たち、その前後の仕事をしている人たちも減ってきています。価格訴求商品が増えている中、消費者が良いものを選んで使っていくことが業界の発展につながる唯一の道だと思っています。
是非、常滑に足を運んでほしいですし、使ってみていただきたいです。
私が主催する、「知る・愉しむ~日本の器」の講座を通し、ゲストの方が知識を得る事で美意識が育まれることを体感しています。
最近はペットボトルが日常的になり、急須を持っていなくても珍しくありませんが、だからこそ「家族で使う急須」ではなく、『マイ急須』というポジションがあっても良いかと思っています。
是非自分のお気に入りのひとつに常滑焼を入れていただきたいと思います。

プロフィール
西巻 顕子 Nishimaki Akiko
一般社団法人 知る・愉しむ~日本の器 代表理事
器・空間プロデューサー
東京ドームテーブルウエアフェスティバル テーブルウエア大賞 優しい食空間コンテストにて、2014年/2016年の二度に渡り、大賞・経済産業大臣賞受賞
空間プロデュースを通し、日本の伝統工芸品や作り手と使い手を繋ぐ活動を行う。
B20東京サミットレセプションパーティ「Japan Night」では、日本全国の酒器を使った試飲コーナーをプロデュース。関西調理師会「古萌会」発行機関紙にて、日本の歳時記等に関する連載を持つ。知る・愉しむ~日本の器 資格制度主催

一般社団法人 知る・愉しむ~日本の器

note – 西巻顕子