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お茶業界の現状は? – 日小田知彦氏(エコバイ株式会社 代表)|1899 CHACHACHA BLOG

2020/05/30 一服のお茶のような話 濱田裕章

お茶業界の現状は? – 日小田知彦氏(エコバイ株式会社 代表)|1899 CHACHACHA BLOG

お茶業界の動向・課題とは

今週、東京都も緊急事態宣言が解除されたものの、世界的にはまだまだ影響が拡大している新型コロナウイルス感染症。1899の飲食事業やホテル事業への影響は、主要メディアで伝えられている通り大きなものがあります。しかしその主要メディアでは伝えられるのは、飲食業界や観光業界、また医療業界中心で、各業界にフォーカスを当てたものは多くはありません。そしてこの影響は当然にお茶業界にも波及しています。各イベントの中止、新茶出荷時期直撃への影響。収束しかけているとは言え、その影響はまだ続きそうです。むしろこれからさらに影響範囲が広がる可能性もあります。今回は、お茶業界の課題解決のために各産地と行政をつなぎ、流通やブランディグなど多方面で取り組むエコバイ株式会社の代表である日小田知彦氏に「お茶業界の現状」、「新型コロナウイルス感染症拡大によりお茶業界がどのような影響を受けているのか」について聞きました。

  • – 生産者を主なターゲットとした大規模イベント「国産お茶フェス」も継続的に主催されていますが、お茶業界への関わりはどのような時期からなのでしょうか。

地域ブランドのプロデュースで熊本県水俣市に入ったのがきっかけです。その後、農林水産省の6次産業化のプロデュース事業を通して、お茶産地の課題解決に関わったのが始まりです。当社の「青果・加工開発・販売」事業と通じるものがあり、その後少しずつご相談いただく機会が増えてきました。販売もしているため、お茶の取り扱いができたこともひとつの要素です。お茶は伝統ある嗜好品であり、日本産の品質の高さは世界に認められており、品質管理の面から輸送もしやすい商品です。しかし生産現場は疲弊しており高齢化も進んでいるため課題も多く、社会的に取り組むべきであると感じました。

  • – エコバイ様の事業活動としては、お茶業界においてどのような方々とのお付き合いが多いのでしょうか。

地方のブランディング事業を行っているため、観光庁はじめ国の多くの機関と各産地との関わりがあります。お茶は輸出重点品目に指定されているため、国が推し進める施策があり、そこと十分に連携をとっていく必要があります。また昨今「輸出」も大きなテーマのためJETRO(独立行政法人日本貿易振興機構)との関わりも大きくなってきています。

  • – お茶業界における生産者の方々の現状や課題とはどのようなものなのでしょうか。

ちょうど新茶製造の時期で、各生産者は製茶に励んでいますが、今年度で長年の茶生産を止める高齢事業者も多いです。これまでの茶価格の低迷による収益減とそれに伴う後継者不足が影響しています。販売先がある生産者については、今年も従来同様に生産事業に励んでいます。ある地域では、廃園となった茶畑を、地域に残っている生産者へ委譲する動きが進んでいます。それによって、家族単位で行ってきた茶業界の作り手による味わいの多様性が失われつつあります。

また従来の農協を中心とした流通のあり方にも変化が求められていると感じます。飲料が多様化している中、お茶の需要は減少してきました。日常的な飲み物であると同時に嗜好品でもあるお茶に価格面含めた付加価値を付けていく必要があり、それには現在の状況では不十分です。流通の仕組み、そして産地自体にも変化が求められています。しかし特に伝統産地や高齢化が進んでいる産地については、変化に対応する気風が弱いのも事実です。

また、国が施策を進める中、各産地でも個別に動いており、そこに課題もあると感じています。本来国が戦略を立て、その大きな流れの中で各産地が動いていくべきなのですが、各産地が独自に推し進めている施策もあり、国の施策と重複しているなど効率的に行えていない部分があると考えています。

さらに輸出についても課題が多いです。商品に特化した流通面のアドバイスできる人材が非常に少ないと感じており、各産地において推進力が出ていません。海外ではお茶は薬の取り扱いになっているため、販売において日本人の感覚とは求められるものが異なります。また各国の栄養表示、衛生基準、農薬基準などのリーガル面をクリアしていかなければならないのですが、この点に関しても各産地へのサポートが手薄な状況です。

  • – なるほど。農業全体の課題がお茶も同様の状況なのですね。この現状に対して、協会などの業界団体はどのような動きをされているのでしょうか。

茶業界に関しては、それぞれが得意とする分野(茶品種の開発、担い手育成、輸出業務、機械化など)で例年と変わらず業務を行っています。現在最も注目されているのは、数年前から鹿児島で試運転を重ねている無人収穫設備など、茶業の無人オートメーション化です。その他、年間通して茶製造ができるように特殊な茶葉冷凍技術の開発など、アカデミックな生産に関する新たな事業が多く生み出されています。

しかし各団体は各産地・各農家に対して個別に対応しきることは難しい状況で、国・団体は地域に任せています。また農業において組織構造の都合から流通に関する専門家・アドバイスできる人が少ない状況です。全国的な会議が開催されても、流通、輸出、衛生基準、その他の細かい基準、買い手の状況を分かっている人が少ないため、本質的な問題解決にまで至ることが難しい印象があります。国家のブランド力やそのバリューを図った上で正当な価格でバランス良く販売できる茶匠(販売者)が必要だと感じています。

  • – 今回の新型コロナウイルス感染症では世界中で様々な業界に影響が出ています。お茶業界でもすでに各式典をはじめとした行事が中止になっていると聞いていますが、実際にはどのような影響が出ているのでしょうか。

茶匠(販売者)に関しては、人とのコミュニケーションによる売上が多い事業者は、緊急事態宣言に伴い売り上げが落ちています。それに伴い生産者からの茶葉買上量も減少し、生産者サイドでは廃棄処分が始っています。また、輸出収益の多い販売者も世界的なパンデミックの中、出荷が止まっている状況が見られます。

もちろん影響を受けていない生産者もいますが、お茶はそのまま飲むだけでなく、お菓子などの加工用で使用される事も多いので現在世界的に流通が止まっている中、特定の相手だけに販売している生産者などは特に影響を受けているようです。例年購入してくれる量の半分以下、という状況なので、廃棄をする生産者も出てきています。ただし冷蔵設備を整えている生産者についてはうまく乗り切れるかもしれません。アルミ袋で光を通さず適切な温度管理のもと保存しておけば、3年前のお茶でも十分な品質を保てます。今は販売することができないかもしれませんが、たたき売りは絶対にしてほしくないと感じます。低価格で購入してくれるお客様は本来の顧客ではありませんし、時間をかけて築き上げてきたブランドを損ねてしまいます。また何よりも同地域の他の生産者に申し訳ないのではと感じてしまいます。

さらには一部のエリアでは新型コロナウイルス感染症が拡大する前から、20年度には生産者の40%が廃業を予定していると聞いていましたので、今回の影響でそれ以上の生産者が廃業になってしまうのではと危機感を感じています。

  • – 御社では「国産お茶フェス」などのイベントも主催されていますが、この厳しい情勢の中で、今後どのような取り組みをされていく予定でしょうか。

これまでと変わらず、お茶に関する地域経済の発展のためのあらゆる対策を行う予定です。現在は、国内外の社会生活が通常に戻った時に必要になるお茶に関する認証や成分検査、国外での消費動向調査、商品開発、機能性開発などを行っています。また今年度は、国の事業を活用した地域茶の商品開発、販売なども行います。首都圏における最大の日本茶イベント「国産お茶フェス」も2021年1月に開催を予定しています。

新型コロナウイルス感染症の影響で出遅れていますが、来月から各生産者と本年の戦略を立てる予定です。私なりには着地点が見えているつもりなので、生産者や地域・行政としっかりと協議を重ねていきたいと思っています。お茶の在庫に対する問題は、量があまりにも多いため、設備がない生産者が個別に対応していくことは不可能です。この問題に関しては、地域全体の課題として地域・行政を動かしていく必要があると思います。

  • – 色々と貴重なご意見ありがとうございました。今後、私たち1899としてはレストラン業、ホテル業はもちろんのこと、不特定多数の人が集まる場所の強みを活かして、お茶の魅力をしっかりと伝えられるプラットフォームにしていきたいと思っています。

こちらこそありがとうございます。活動が制限される分、考える時間は増えました。今後の企画を色々と練っています。私たち自身もお茶の魅力を発信していく拠点をまだまだ探していますので、是非その際は協力できればと思います。特にホテルであればティーツーリズム[※1]の視点からより多くのお客様にお茶の魅力を伝えることができると思います。引き続きよろしくお願いいたします。
※1 ティーツーリズム:茶や茶文化を観光の対象とする観光形態。

日小田知彦氏(エコバイ株式会社-代表取締役社長)