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“流れる時間”を感じながら・・・— 直線の時間と円い時間—

2019/09/21 ゆるやかな時間の話 太田菜穂子

“流れる時間”を感じながら・・・— 直線の時間と円い時間—

ようこそ天心庵守へ。 

樹木希林の遺作となった映画「日日是好日」(にちにちこれこうじつ)を観たのは、昨年の9月15日にこの大女優が亡くなってすぐの10月末でした。

私は映像のなかの樹木希林という女優の演技や他人に媚びず凛とした佇まいがとても好きですが、私人としての内田啓子という人柄にとても興味がありました。もちろん、これまで何のご縁もありませんでしたので故人を知る機会などなかったのですが、私はこの映画のなかで内田啓子さんに出会えたような気がするのです。ですけれども、何がどうという説明がうまくできません。

なんとなく・・・でも、強烈に今もあの声と口調の強弱が遺っているのです。

何故ならそれらは演じてできた言葉ではなく、これまでこの女優または私人が生きてきた時間から湧きでた心の言葉なのだと勝手に私が感じたからかもしれません。

「世の中にはすぐにわかるものと、すぐわからないものの二種類がある。

   すぐにわからないものは長い時間をかけて少しずつわかってくる。」

                    (映画「日日是好日」より引用。)

静かな映像とともにこの言葉が流れたとき、私はふーっと「流れる時間」を感じて、自然回帰の宙に入り込んだ気にさえなりました。

樹木希林という女優がこの作品を選んだ理由はわかりませんが、私はこの言葉を思い返すたびに単純に原作者が書いたものではなく、私人・内田啓子さん自身の想いを遺されたのかもしれないと一ファンとして願いながら心に留めています。

私にとってこの映画が忘れられないものになったわけの一つに、時間(とき)の流れが五感にひびく描写だったこともあります。

掛け軸の禅語、つくばいの水、雨の音、木々の木漏れ陽・・静かにそして鮮明に映し出されていきました。

そうした美しい描写に誘われながら私の心がほぐれていくと次第にからだ中でトクトクという自分の鼓動が聴こえてきたのです。

あ、自分のからだも時間を運んでいる。そう感じた瞬間、生きていく時間がとても愛おしくなりました。いのちが有限なのも歳を重ねていくうちに現実として感じ始めより身近になってくるのだな、とこのところ想うようになりました。

85歳の母親にとっては、そうしたことがもっともっと当たり前にあって、周りの知人の音沙汰がなくなるたびに「次はわたしかしらね。」というのです。

心の準備がいつでもできているかのようでした。そんな老婆の母がより愛おしくなります。

秋の七草 「萩」(はぎ)の花

秋の七草 「萩」(はぎ)の花

古来、日本人が四季折々を通して営んできた暮らしの中で生まれたそれぞれの時間の流れを都会に暮らす私たちはどれほど感じているのでしょうか。

冬支度のためにこさえた干物や発酵などの保存食、暖をとるまき割りや衣類のしつらえ。今も地方ではそうした時間が流れているところもありますが

都会にいれば一年中同じ環境で過ごせる時代になりました。

私は、都会の時間は直線の流れと感じています。

直線って?と思われるでしょうけれど、何かすっと即座に流れて過ぎ去るときの感覚とでもいいましょうか。いつのまにか食品ロス、過剰包装による大量のごみ、ペットボトル、”便利な”使い捨ての中で暮らすようになってしまいました。一方では、無駄を省くために、時間までも省いている。洗濯機・調理器具もとっても便利になってきて忙しい都会人にとっては理にかなっているのかもしれませんね。息子夫婦の家にも、洗濯から乾燥まで一気に自動でやってのける高性能な洗濯機があって、天候に関係なく全行程”たった”3時間で完了だそう。ましてや省エネで電気代もそう高くないそうです。

洗濯ものはお日様にあてた方がいいし、スカートのフリルも丸まらないでいいのにと思うのですが、彼らに言わせると「干す時間と取り込む時間を買っている。」のそうです。私の世代ではちと納得いかないのですが、それだけ若い世代の時間の価値が進化していると理解しないといけないようです。

そうした時代を作ってきたのはむしろ私たちの世代だと自省すれば、毎日忙しい日々を過ごしている彼らの価値観も受け入れることができます。

若いときの時間と老いたときの時間の感覚は違うものですが、1日のなかで一瞬でもカチカチと音をたてる直線の時間ではなく、ゆっくりとまわる時間の流れを楽しまれるのもいいかもしれません。

1899のある東京の夜にも、夏の終わりを告げるように鈴虫の心地よい鳴き声が聞こえます。そう、秋はもうすぐそこまで。

1899のカフェで、秋の高い空を眺めながらゆるやかな時とともに一服お茶を召し上がりませんか。

長月(ながつき)

天心庵守にて

PS:レストラン1899お茶ノ水では10月1日から秋のグランドメニューがスタートいたします。

秋の味覚を心ゆくまでお楽しみください。